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千葉地方裁判所 昭和47年(ワ)655号 判決

原告 石橋竜美

原告 石橋邦子

右両名訴訟代理人弁護士 上野忠義

同 稲井孝之

被告 千葉県

右代表者知事 友納武人

右訴訟代理人弁護士 松尾巌

同 出射義夫

右指定代理人事務吏員 島田良一

〈ほか二名〉

主文

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、申立て

(原告ら)

一、被告は原告らに対し各四、〇一七、二四〇円およびこれに対する昭和四七年六月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、仮執行宣言

(被告)

主文同旨。

第二、請求の原因

一、(事故の発生)

原告らの二男亡石橋啓司(以下啓司という)は、昭和四七年六月二一日午後五時三〇分頃、千葉県が所有管理していた千葉市天台町一九七番原野六〇一平方米(以下本件土地という)に存在する池沼(以下本件池沼という)上で、他の三人の小学生と筏に乗って遊んでいたところ、筏が転覆して、池に投げ出されて溺死した。

死亡したのは啓司と訴外米華健司、一緒に遊んでいて助かったのは訴外鶴見誠、同高旭であった。

事故の直後、近所の人から通報を受けた千葉市消防局は、救助隊員三五人、消防車六台を出動させて必死の救助作業をしたが、啓司が引き揚げられたときは、すでに死亡していた。

なお筏は、古材で作った長さ二米、輻一・五米のもので、事故数日前に付近の中学生が作って放置していたものである。

二、(現場の状況)

1、本件池沼の存在する約三三、〇〇〇平方米の土地は、被告の所有地で、この土地は、同四八年千葉県において開催予定の第二八回国民体育大会(以下国体という)に備えての駐車場予定地となっていた。

2、右土地は、被告の管財課が管理していた。

3、右土地は、千草台小学校から約五〇〇米しか離れていない新興住宅地のど真中に位置しており、付近には多数の民家が存在する。

4、被告管財課は、事故前に、国体事務局よりスポーツセンター工事用残土の処分場所に使用させてほしい旨の申入れを受け、整地を条件に許可していた。

そして右工事の残土が一部持ち込まれていた。

5、この土地は、またスポーツセンター工事用のブルドーザーの置場にも使用されていた。

6、またこの土地には、被告と千葉市が費用を出し合って昭和四六年より同四七年にかけて、排水管埋設工事を施行したものである。

7、イ、本件池沼は、残土廃棄や排水管埋設工事等により出来た土地の窪みに、付近住宅の下水、ガソリンスタンドの廃液および雨水が流れ込んで生じたもので水質は汚濁していた。ロ、池沼の大きさは、面積二五〇平方米の楕円形で、水深一・八米位であった。

8、付近の住民は、本件池沼が危険であるから埋めるよう被告に陳情したこともあるが、被告は、何ら手を打たず放置していたものである。

三、(帰責事由)

1、本件池沼をふくむ被告の国体駐車場予定地は、国家賠償法二条一項にいう公の営造物にあたる。

公の営造物は、行政法にいう公物と同じ観念で、公の目的に供用される有体物である。池沼などの自然公物も含まれる。

国体駐車場予定地として整地に着手した以上公の目的に供用されることになったといえるので、公の営造物と見られるのである。

仮に同法同条の適用がないとしても、民法七一七条の土地の工作物にあたるか、これに準ぜられる(横浜地方裁判所昭和三八年三月二五日判決(下民集一四―三―四四四))。

2、被告は、本件土地の所有者であり管理者であった。

3、被告の土地管理上の瑕疵は、次の点に存在する。

イ、住宅地のど真中に位置する本件土地に排水が流入した場合、すばやく排水設備を備え、池沼が出来ないように処置すべきなのに放置した。

ロ、また池沼が出来た後にも、すぐにこれを埋めるべきであるのに放置した。

この点について付近住民の陳情を無視した。

ハ、また池沼を埋めない場合は、その周囲に柵を設け、危険だから立入らないよう警告する立札を立てておくべきなのにこれを怠った。

管理者は、池沼が出来ていることさえ確認していない。

4、被告は、事故の翌日、あわてて、本件池沼の岸に「ここはあぶないからぜったいに入らないで下さい」という立札を立てた。

5、よって被告は、池沼で溺死した啓司とその父母が蒙った損害を賠償する責任がある。

≪中略≫

第四、被告の主張

一、(本件事故発生の場所)

本件事故発生の場所は、被告所有の本件土地の北部、農林省の開拓財産である農道に接する部分に存在する池沼である。

二、(被告の本件土地取得の経緯)

被告は、当初、スポーツセンター用地として、現在県営サッカー場、陸上競技場および県営野球場等並びにこれらの南部に連なる土地を包含する広汎な地域を予定し、一部民有地を除きその大部分の所有権を取得したが、その後設計が変更され、所要面積が縮少されたため、予定地内の右サッカー場等の存在する部分を除き、これらのほぼ南方にあたる部分、すなわち、

(1)、昭和四三年三月一九日教育庁から引き継いだ六九、〇五七・六三平方米

(2)、同四四年三月二六日千葉県開発公社から買い受けた九、二五二・一一平方米

(3)、同四五年八月四日菱沼松次外二名から交換により取得した五、七七四・〇〇平方米

の合計八四、〇八三・七四平方米の余剰を生じた。

従ってこれらは当初の計画の変更により爾後その使用目的を失い、その決定を今後にまつこととなった。

本件池沼の存在する本件土地は、右余剰地の内(2)の千葉県開発公社から買い受けた土地の一部に該当する。

三、(本件池沼の管理状況)

本件池沼は、被告が本件土地を取得する以前から、右土地内のほぼ同一場所にあるもので、そのことは、千葉県教育委員会の同三六年八月の千葉県総合運動場現形図によっても明らかである。

古くは右池沼において釣りも行われる等周知のものであるが、今日まで本件の如き事故の経験は一度もなかった。

かような次第であるから、被告においても、本件土地の取得後従来の管理方法を変更しなければならないような特別の事情がなかったので、これをそのまま踏襲した次第である。

四、(本件池沼付近の状況)

中間に京葉道路をはさんでの南方五〇〇米に千草台小学校が存在するが、原告ら居住の千葉市萩台町から同小学校に通う児童は、右京葉道路上に架橋された千草橋に通ずる道路を利用することになるから、本件池沼はその道順には当らない。

最近に至り、本件池沼の周辺も漸次に開けつつあるが、まだ人家は密であるとはいえない。

五、(本件池沼の現状)

本件池沼は、前述のとおりスポーツセンター建設工事により生ずる残土の投棄により順次に埋没され、以前より小規模となったが、後記事情により、事故当時においては、未だ全部埋没されるに至らなかった。

本件池沼は、付近住宅から放流される下水およびガソリンスタンドの廃液により汚濁し、悪臭を放ち、これに加えて夜間を盗んで投棄される廃材または塵芥が散乱し、子供らの遊び場としては必ずしも好適の場所でなく、子供らも出入りを避けるような状態であった。

なお、昭和四六年七月中旬以降は、右池の周辺二箇所に千葉県青少年育成会連合会長荒田藤盛の立てた警告の立札が立っていた。

六、(埋立の一時中止)

昭和四五年八月頃から同四六年二月頃にかけて、千葉県スポーツセンター建設事務所から、スポーツセンターの諸施設の工事により生じた残土を本件池沼のある地域に投棄することの申込みを受けたので、被告は、捨土を低地部分に投棄し、かつ均らしておくことを条件として、右申込みを許可したが、右捨土の実施中、付近住民から、低地を全部埋没することは流下する下水が溢れる結果となるので今後千葉市に交渉し同市において下水工事を完成するまでは右残土の投棄を中止するよう申立てがあったので、一時右捨土を中止したものである。

もっとも天台地区の下水の排水は、宅地内完全処理を条件として千葉市の建築許可を得ていたものである。

なお同四五年一一月七日頃から同四六年三月三一日にかけて千葉市土木部都市排水課において、県有地に流入していた排水路を排水管に布設替えする工事を施行したが、この工事については、被告は受益者として同四六年二月一五日総額六、二二四、〇二六円を支出した。

七、(事故およびその前後の事情)

同四七年六月二一日、本件事故によって死亡した啓司(千草台小学校四年)、同米華健司(同三年)、助かった鶴見誠(同五年)、同高旭(同三年)、啓司の兄石橋直記(同六年)、および高山陽一(同一年)らが、付近の広場で水遊びをしていたが暫く経た後鶴見誠が池に行って遊ぼうと誘い、皆で行くことになり、鶴見誠および啓司の両名が先に行き、他の四人は少しおくれて行ったところ、最初鶴見誠一人が筏に乗っていたので米華健司および高旭の両名が更に乗り、最後に啓司が乗ったところ、筏がぐらぐらと揺れ、誰かが危いから降りろと叫ぶうち筏が転覆してしまった。この間筏に乗らなかった高山陽一は、この有様を岸で見ていた。また石橋直記は、岸にいて、向うへ行けとか、こちらに来いとか指図していた。

筏が転覆した後、高旭は一旦沈んだが浮き上り、近くの丸太に縋って岸に近づき石橋直記に助けられて岸に上り、鶴見はすでに岸に上っていたが、啓司と米華健司の二人は遂に見えなくなってしまったのである。

この間、同小学校五年の小沢正彦は、買物の途中筏に乗っていた鶴見誠と、米華健司を見つけ、同人らにやめろと言ってとめ、両名は一旦筏から降りたが、また筏に乗ったものであり、同小学校五年の沼部和久は、放課後カブト虫を取りに行った帰り、鶴見誠、米華健司および啓司らが池で遊んでいるのを見て危いと思ってとめたが、同人らはやめなかった。

その他平素、天台部落の人達は、しばしば児童達に、池で遊ばないよう注意し、又学校でも池で遊ぶことは禁じていたものである。

≪以下事実省略≫

理由

一、(事故の発生)

請求原因一の事実中、原告らの二男啓司が昭和四七年六月二一日に本件土地に存在する本件池沼において、他の三人の小学生と筏に乗って遊ぶうち池に落ちて溺死したこと、右筏は古材で作ったもので、右事故の数日前に付近の中学生が作って放置していたものであること、および被告の主張七の事実は、当事者間に争いがない。

二、(現場の状況)

請求原因二の事実中1の本件池沼の存する土地が被告の所有地で、国体の際、開会式にあたり臨時の車置場として使用されることになっていたこと、2の右土地が被告の管財課の所管であること、3のうち右土地が千草台小学校から約五〇〇米のところに在ること、および最近右土地付近に漸次、新住宅が建設されていること、4のうち被告管財課は、千葉県スポーツセンター建設事務所から本件土地を、工事用残土の処分場所として使用したいとの申込みを受け、捨土はこれを均らし、かつその場所を整地することを条件としてこれを許可したこと、7のイのうち本件池沼に付近住宅の下水、ガソリンスタンドの廃水、および雨水が流れ込み、水質が汚濁していたこと、7のロのとおり本件池沼の事故当時の大きさは、面積二五〇平方米の楕円形で、水深一・八米位であったこと、以上の事実は、当事者間に争いがない。

請求原因二の3のうち、本件土地が新興住宅地の真中に位置していることは認められない。≪証拠省略≫を総合すると、本件池沼は、新興住宅地の外れに位置しており、前記のとおり千草台小学校から五〇〇米で、小中学生の行動半径内にあり、その付近で遊ぶ子供達はいたが、そばにある農道は通学路にはあたっておらず、どちらかというと、へんびな所で、なかなか人の行かないところであったことが認められる。

請求原因二の4について、≪証拠省略≫によると、請求原因二の4のうち、工事用残土が一部持ち込まれていたこと、右工事用残土は、全部で約一二、四〇〇立方米あったが、そのうち約八、四〇〇立方米の捨土が本件池沼の近くに施行され、そのため、本件池沼は、もと、二倍の面積があったが事故当時は半分位になり、水深も浅くなって事故当時の深さになったこと、ところが捨土の実施中、付近の住民から低地を全部埋められてしまうと下水の流れて行く場所がなくなり、下水があふれてしまうので、付近住民が千葉市に交渉して下水の工事を施行してもらうまで残土の投棄を中止するよう申立てがあったため、前記八、四〇〇立方米位で、一時右捨土を中止したことが認められる。

請求原因二の5の事実を認めるに足る証拠はない。

同二の6について、≪証拠省略≫によると、千葉市土木部都市排水課において同四五年一一月一七日から同四六年三月三一日にかけて、本件池沼の存する約三八、〇〇〇平方米の被告所有の土地の一部に流入していた排水路を排水管に敷設替えする工事を施行したこと、その結果、従来本件池沼に流れ込んでいた排水の一部が流れ込まなくなったこと、被告は受益者として同四六年二月一五日総額六、二二四、〇二六円を支出したことが認められる。

請求原因二の7のイのうち、本件池沼が残土廃棄や排水管埋設工事等により出来た土地の窪みに水が流れ込んで出来たという主張について、≪証拠省略≫中には、右主張に添い、本件土地に、昔、池があったところ、被告が土を盛ったため昭和三〇年頃池がなくなったが、低い所ではあったので、同四二ないし四三年になって、近くにガソリンスタンドと住宅が出来たためそこから流れる排水がたまって、本件池沼ができた旨の供述部分がある。しかし≪証拠省略≫によると、被告が本件土地を取得したのは同四四年三月五日であることが認められるから、その前の同三〇年頃に被告が本件土地に盛土をして昔からあった池を消滅させるということは考えられず、≪証拠省略≫によると、同三六年八月当時本件は訴外吉田忠次郎の所有であったが、そのころに被告県の教育委員会が京葉測量株式会社に作成させた千葉県総合運動場原形図の原図には、本件池沼の部分に池と表示されていたことが認められるから、その頃池でなかったということはできず、また≪証拠省略≫によると、本件池沼には、昭和四四年当時、まだふなとかえびがにが棲息していたことが認められるから、同四二ないし四三年に近くに出来たガソリンスタンドや住宅から流れる排水はあったとしても、この排水がたまって本件池沼ができたものとは考えられない。従って≪証拠省略≫の大正一三年九月当時から事故当時まで本件池沼は同じ場所に池として存在していたもので、昔の池がなくなって別の池ができたということは聞いていない旨の証言の方が、より真実に近いものと思われる。前記供述部分は、採用できず、他に前記主張事実を認めるに足る証拠はない。

請求原因二の8の事実を認めるに足る証拠はない。

三、(帰責事由)

1、公の営造物

イ、国家賠償法二条一項にいう公の営造物とは、国または地方公共団体により、公の目的に供用される有体物を言い、国または地方公共団体の所有物であっても、公の目的に供用されない物(例えば国有財産法三条または地方自治法二三八条三項にいう普通財産)には、本条の適用はないものと解される。

ところで被告が本件土地を取得したのは、前認定のとおり昭和四四年三月五日であるが、≪証拠省略≫によると、本件土地は、当初被告の教育庁においてスポーツセンター第二期建設用地として計画された土地のうちに予定されていたが、買収交渉の段階において、他の土地と一緒に購入することができなかったところ、右第二期建設用地は、このような未購入敷地と、道路公団による通路建設等により敷地が縦断され、スポーツ施設としての建設が不可能であるため、被告教育委員会は、昭和四三年三月一九日その所管の行政財産であった右第二期建設用地につき行政財産の用途を廃止し、被告知事に引継ぎをしたため、これらは被告の普通財産となったところ、右引継ぎの頃には、財団法人千葉県開発公社が本件土地を前所有者から買い受けて取得していたもののようであるが、被告がこれを右開発公社から他の八筆の土地と共に買い受けて取得した時に、本件土地は被告総務部管財課所管の被告の普通財産となったことが認められる。

すなわち本件土地は、被告において、もと、用途廃止以前に購入できていたならば、被告教育庁所管のスポーツセンター第二期建設用地として被告の行政財産となるはずのものであったが、その後被告において購入取得したときには、用途廃止されていて、公用または公共用に供していたものではなく、これに供することと決定したものでもなかったものといわなければならない。

ロ、自然公物も、公の営造物に属するものといえるが、本件池沼が、自然の状態で、公衆や多数の個人に利益を与え、役務を提供し、または公衆や多数の個人をして使用することを得せしめるものとして公共の目的を達していたものと認めるに足る証拠はない。

前認定のとおり付近の住宅の下水やガソリンスタンドの廃液が事実上本件池沼に流れ込んでおり、付近住民から下水の流れる場所がなくなりあふれるからという申出でがあったため被告が請求原因二の4の捨土を一時中止したことがあり、≪証拠省略≫によると、本件池沼には、夜間に乗じて捨てられた古木材や塵芥が存在していたことが認められる。

しかし、≪証拠省略≫によると、本件池沼に下水を流入させている地区の家屋建築確認申請にあたって、千葉市においては、当該地区の下水、排水は宅地内完全処理という条件で建築許可を与えていたものであることが窺われるから、本件池沼への下水の流入は、本件土地が私人の所有地であったころから、不法なたれ流しであったものといわざるを得ず、古木材や塵芥の投棄も、同様に不法な投棄という外ないから、これらを目して、本件池沼が公共の用に供せられていたということはできない。

ハ、本件池沼の存する土地が、国体の際開会式にあたり臨時の車置場として使用されることになっていたことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると本件池沼の存する土地が同四八年開催予定の国体の際の臨時の駐車場とする以外に当面使用するあてはないという話は、被告が本件土地を購入した同四四年当時から出ていたがはっきりきまってはいなかったことが認められ、≪証拠省略≫によると、国体実行委員会から被告に対し同四八年六月五日、国体の開閉会式等における臨時駐車場として本件池沼の存する土地(但し本件池沼のあった場所付近をふくまない。本件池沼の存した付近の場所は地盤が軟弱であったことなどから後記天台第一、第二駐車場に入っていなかった)を借用したい旨の申入れがあったこと、その頃にはすでに本件池沼の存した土地は一部を除き天台第一、第二駐車場となっていたこと、被告は同年同月六日右申入れを承認したことが認められる。

しかしながら、事故当時、本件池沼の存した土地がそのための整地に着手されていたことを認めるに足る証拠はない。

そして、≪証拠省略≫によると、本件池沼およびその存する土地は、本件事故当時には、まだ自然のままの原野の状態であったことが窺われるから、当時これがそのままで公の営造物であったと認めることはできない。

ただ、臨時であれ、一時的であっても、将来相当の期間有体物を公の目的に供用する旨の国または地方公共団体の意思決定があれば、右有体物は、所管の如何にかかわらず、国家賠償法二条所定の公の営造物に該当するものと解して、これを適用すべき場合があり、前記争いのない事実を右意思決定がなされたものと解する余地がないわけではない。しかしながら、仮に本件池沼またはこれをふくむ土地を右のような意味で公の営造物に該ると解したとしても、これを自然のまま放置しておいただけでは、管理の瑕疵はないものと言わなければならない。

2、土地の工作物

民法七一七条にいう土地の工作物とは、土地に接着して人工的作業を加えることによって成立した物をいうが、本件事故当時、本件池沼あるいはこれをふくむ土地が、人工的作業を加えたものであったことを認めるに足る証拠はない。

四、(結論)

そうだとすると、本件池沼をふくむ土地が公の営造物または土地の工作物であり、その管理に瑕疵があったことを前提とする本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木村輝武)

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